童話作品


「ある電車のものがたり」 by 村井亮介


 あるさむい春のあさ、7才の一太(いちた)はさんぽをしていました。
一太がふみきりの前で電車がくるのをまっていたら目の前をいっぴきの
子犬がせんろにとび出しました。
 「あっ、あぶない」一太はあわててたすけに出てしまいました。子犬は
けがひとつしませんでしたが、一太のほうは電車にはねられてしんで
しまいました。さむい春のあさのとてもかなしいじけんでした。


 ちょうどそのとき天国で天使がとてもあわてていました。天国の
コンピューターがこわれたのです。すぐになおしたのですが、おなじときに
「うまれかわりてつづき」をされていた一太はひどい目にあいました。
天使は言いました。
 「だから天国をコンピューターでうごかすのははんたいだったんだ。
やれやれ、この一太は電車にうまれちまったよ。」
 「おい、コンピューターがかりの天使」こえをかけてきたのは
天国コンピューターのえらい天使でした。
 「これはぜったいにひみつだ、ばれたらわたしがバツをうける。
その一太という子にはせかいでさいしょの心をもった電車になってもらおう」
 「かわいそうな子どもだなあ、電車じこでしんだうえに電車にうまれかわる
なんて。それもせかいのれきしで、はじめての心をもった電車なんて・・・」
 一太はおどろきました。自分が電車になっているのです。それもしんぴかの
ディーゼルカーで、明るい青色でかたちがとてもきれいでした。一太はとても
よろこびました。


 電車の一太はしごとのさいしょの日です。うんてんしゅさんは電車に
はなしかけるのが好きな人でした。ホシカさんと言うその人は電車が大好きで
自分がうんてんする電車をいつも子どものように思っているのです。
 「よしよし、今日からお前のうんてんをするよ。よろしくね。」
 一太は気づいたのですが、うごかそうと思えば自分だけで電車をはしらせる
ことも、まどやドアををあけたりしめたり、いすをもち上げたりできるのです。
でも、ことのことはだれにもひみつにしておこう、と一人で思いました。だって
電車が自分でうごくなんてへんですもの。


 さいしょのえきにつきました。おきゃくさんがぞろぞろとのりこんできます。
だれも一太がいきていることに気づきません。一太はビックリしたことが
ありました。40さいくらいの男の人がわかい女の人になでなでしているのです。
女の人は「やめてください」と小さいこえで言いましたが男の人はやめません。
一太は、つりかわをその男の人のあたまにガツンとぶつけてやりました。
 「いてっ」男の人は手をはなして、あたりをみまわしてから、またその
女の人になでなでしました。一太はまた、これでもかとつりかわをぶつけました。
 「いたた、だれだちくしょう」と男の人は言ってあたりをみまわしてから
こわがってなにもしなくなりました。一太はその男の人が電車をおりるときには
ドアをいつもより早くしめてはさみつけてやりました。
 「いてえ、なんだちくしょう、きみのわるい電車だな」一太はいいきぶん
でした。一太にとってはわるいやつをこらしめるのはなんだっていいこと
なのです。でも、ホシカさんはこまってしまいました。その日のしごとを
おわって、一太をあらいながら言いました。
 「おいおい、お前どうしたんだい。まさか、こわれてるんじゃあるまいね、
いきなりドアがしまるなんて、しかもおきゃくさんをはさんでしまって・・・
こまったことだ」


つぎの日は足がふじゆうなおばあさんがのってきました。でもだれも
気づかずにせきをゆずってあげる人はいませんでした。一人だけ、げんき
いっぱいのだいがくせいがおばあさんを見ましたが手にもったマンガをよんで
いました。一太はその人のいすに、電車のでんきをすこしだけながして
やりました。
 「あちちち、なんだ今のは?」いちどではそのだいがくせいはせきをはなれ
なかったので一太はなんかいもやりました。4かいめでそのだいがくせいは
せきをはなれ、おばあさんがせきにすわりました。一太はほっとしました。
つぎのえきについたときにそのだいがくせいはホシカさんにもんくを言いました。
ホシカさんはあやまりました。
 「すみません、よくしらべてみます。」


 そのつぎの日は一太のおしごとはおやすみでした。一日かけて電車を
しらべることになったのです。ホシカさんは言いました。
 「やれやれ、どうしたんだろう、お前はどこもおかしくはないんだ。
やっぱりさいしょからこわれているのかな。このままだとゴミばこに
行くことになりそうだよ。」


 一太の電車のくらし4日めです。その日はまだ4月だというのにとても
あつい日でした。一太は「なんでクーラーつけてあげないんだろう」って
思いました。じつは電車のかいしゃのえらい人たちがお金をつかわないために
4月はどんなにあつくなってもクーラーはつけない、ということにきめて
いたのです。
 おきゃくさんの中には足をけがしていてギプスをしている女の子もいました。
 「ママ、あついよ、あついよ」とその女の子は言っていました。一太は
「よおし、ぼくの力を見てろよ」と思い、クーラーをつけました。おどろいた
のはホシカさんでした。
 「どうなってるんだ、この電車は?かってにクーラーつけやがった、おい、
お前はまるで心があるみたいだね」と言いました。でも、まじめな
ホシカさんはこのことを、えらい人に言わないといけませんでした。


一太の電車のくらし5日めはとても天気のいい日でした。森の木やこうえんの
花はとてもいきいきしてました。虫たちもとてもげんきだったので、ハチが
いきなりまどから入ってきてホシカさんの目の上にとまりました。ホシカさんは
あわててハンドルをいきなり右にうごかしてしまい、ガッタンと大きなおとが
してしゃりんがレールから右がわへはずれたのです。しかし、一太はすぐに
気づいてハンドルを思いきり左にもどしたのです。またガッタンと大きな音が
してしゃりんはせんろにもどりました。
 ホシカさんは「この子はふしぎな子だ。そうだ、きっとこの子はいきてるんだ。
こんな電車はうまれてはじめてだ」となみだをながしました。


 さて、一太の電車のくらし6日めです。その日はせんろに子犬がとびだして
きました。
 それはとてもこまったことでした。だれもけがはしなかったのですが、
でんしゃはだっせんして、ぜんぶの電車が5じかんもはしれなくなって、
電車のかいしゃはたくさんお金をはらいました。


 その日のよる、ホシカさんは一太をあらってくれていました。
 「ああ、どうしよう、わしにはどうしてもやれないんだ。あのときお前は
子犬をよけてだっせんしたんだ。でも、わしはだれにもお前がいきてるなんて
言えやしない。言えばわしがおかしいと思われる。ゆるしておくれ、お前は
もうおしまいなんだ」


 ホシカさんがかえったあとで天使がやってきました。
 「一太くん、ぼくは天国のうまれかわりのかかりの天使だよ。いきなりだけど、
きみが電車としていきるのは今日でおしまいなんだよ。」
 「ぼくはしんじゃうの?」
 「うん、そうだよ。きみのしたことはね、いきものとしてはとてもすばらしい
ものだったよ。でもね・・・」
 「電車としてはやってはいけないことだったんだね。」
 「ごめんね、こちらでむりにせかいで一人きりのいきた電車にうまれさせたのに。
でも、わざとじゃなかったんだよ。天国のコンピューターがこわれて、しかた
なかったんだ。」 「うん、でもね、ぼくはつまらない電車だったけどうまれて
きたことは幸せだったよ。」
 「そう言ってくれるとうれしいよ。でもね、きみにはとてもいいおしらせが
あるんだ」
 「えっ、なに?」
 「きみはね、またうまれかわるんだけど、いきものとしてのいきかたが
よかったから、もとのお母さんのおなかからまたうまれることができるんだよ。
7才でしんだ一太の弟としてまたうまれるんだよ。」
 「うれしいなあ、もうわすれかけてたよ。」


 あるとてもよくはれた、たいようがあたたかな日に、一太はまた大好きな
お母さんからうまれました。次太(つぐた)となまえをもらった一太は、もう
じこでしんだりすることはありません。ほんとうは次太はうまれるはずでは
なかったのです。天国のはなしあいで電車にうまれさせてわるかったのと、
電車の一太がよい子だったので、きゅうに、うまれることがきまったのでした。
一太がしんだあとは子どもがいないままだったはずのお父さんとお母さんは、
そんなこととはしらずにとてもよろこんでいました。


 ある春の日の一だいの電車のお話でした。


おしまい

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